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  • 子供のかぜと抗菌薬

2008.10.06

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/saisin/20081003-OYT8T00458.htm?from=os2

いわゆる「風邪」の多くはウイルスが原因で起こるため、細菌に効果のある抗菌薬(いわゆる「抗生物質」)は効果がありません。この治療方針がようやく一般の医師に浸透してきたと言えます。但し、抗生物質を求める患者さんに対しては処方を断れないという背景もあります。今後は、親御さんに理解して頂く地道な活動が必要になります。日常の外来診察において、抗生物質の処方は悩みのタネです。


子供のかぜと抗菌薬
不要が原則 処方率激減
 子供のかぜに、医療機関で抗菌薬(抗生物質)が処方される割合が減っている。小児科の開業医らで作る日本外来小児科学会の調査でわかった。「ほとんどの風邪に抗菌薬は効かない」という常識が浸透してきたことの表れだが、ほぼ全員の患者に処方する医師もおり、ばらつきが大きい。(館林牧子)

 同学会の調査チームは、会員を無作為に抽出し、昨年10月に、37・5度以上の発熱や、鼻水、せき、のどの痛みで外来を受診した子供に、どの程度、抗菌薬を処方したかを尋ねた。161人(回収率25%)から回答を得た。

 受診者に薬を処方した割合は、前回の2002年の調査では47%だったが、昨年の調査では26%に激減。発熱した患者への処方率も、66%から38%へ減っていた。

 調査をまとめた「よしだ小児科クリニック」(石川県能美市)院長の吉田均さんは、抗菌薬の処方が減った理由について、「すぐに結果が出る細菌や血液検査が普及したことや、診療指針の影響が大きい」と話す。

 抗菌薬は細菌の増殖を抑える力があるが、ウイルスには効かない。かぜの大部分はウイルスが原因であり、抗菌薬は無効だ。

 それにもかかわらず、従来は「念のため」といった理由や、かぜをきっかけに肺炎などを起こす「二次感染」の予防を目的に、抗菌薬が出されることが多かった。

 だが、海外では抗菌薬を飲んでも二次感染の予防効果はない、との研究が多数ある。のどのかぜは、溶連菌という細菌によって起きることがあるが、外来で簡単に診断できる検査キットが普及し、鑑別しやすくなった。

 抗菌薬を使い過ぎると、薬が効かない「耐性菌」が増える。日本は欧米に比べて抗菌薬の使用量が多く、子供の中耳炎が治りにくいなど、耐性菌が問題になっている。

 2004年、日本小児呼吸器疾患学会と日本小児感染症学会は、溶連菌など細菌感染が明らかな場合を除く大部分のかぜ(上気道炎)には、抗菌薬は原則として不要とする診療指針を発表した。吉田さんら有志のグループも翌年、かぜや急性中耳炎などを対象に、抗菌薬をなるべく使わずに治療する指針をまとめた。

 もっとも、抗菌薬の処方率は医師によってばらつきがある。今回の調査で、熱があっても0~5%の患者にしか抗菌薬を出さなかった医師は48人(30%)いたが、95~100%の患者に出したという医師も22人(14%)いた。

 処方理由に、「家族の希望」を挙げた医師が20%いた。

 東京・広尾で外国人の子供も診療する「スワミチコ こどもクリニック」院長の諏訪美智子さんによると、英国人やドイツ人の親は抗菌薬の処方を嫌がる。一方、中国人は抗菌薬の注射、日本人は飲み薬を望む親が多いという。

 吉田さんは「通常のかぜは抗菌薬ではなく、安静と水分補給で治すよう、小児科医は親の理解を求めていく必要がある」と話す。

(2008年10月3日 読売新聞)