2009.01.10
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090108-OYT8T00271.htm
とりあえずは規制の方向に動きそうですが、これからも賛否両論が巻き起こりそうです。
12月13日のお知らせにも同様の記事を掲載してあります。
薬の通販 規制で火花
「安全性に問題」厚労省、原則禁止へ 「利便性損なう」ネット業界、反対署名
今年6月の改正薬事法施行に伴い、厚生労働省は近く省令を改正し、市販薬のインターネット販売やカタログ販売は一部を除き禁止する。
現在、市販薬は、自由に購入できるのが実情だが、近年、効き目が強く医師の処方が必要な医療用から市販薬に切り替えられた薬も売り上げを伸ばしている。このため、店舗での対面販売による安全な薬の提供を目指し法律を改正した。これに対し、ネット業界など関係者や内閣府の規制改革会議は反発、利便性と安全性をめぐり、対立を深めている。(医療情報部 高梨ゆき子)
■野放し状態
市販薬の販売について、現行法では、薬局・薬店には薬剤師ら専門家が常駐することが必要とされている。しかし、厚労省によると、都道府県の薬事監視員が立ち入り検査した結果、規定通り薬剤師ら専門家を常時配置していなかった薬店が10~20%程度あった。さらにネットという新しい販売手段も広がり、市販薬の販売は、野放し状態なのが現状だ。
その中で、1997年に胃潰瘍(かいよう)の薬として、H2ブロッカーが医療用の薬から市販薬に切り替わったのを始め、水虫の薬など効果が高い一方で使用に注意が必要な医療用の薬を市販薬に切り替える動きが進んできた。
そこで、改正薬事法では、市販薬を危険度の高い順に1、2、3類の3段階(表)に分類し、段階に応じた取り扱いや販売方法を整理した。専門家による対面販売の原則を徹底するため、注意力が低下し、意識障害を招く恐れがあるH2ブロッカーなど危険度の高い1類は、薬剤師が文書で説明することを義務づけた。
そして、これまで事実上、黙認してきたネットやカタログなどを通じた通信販売は、ビタミン剤など3類だけに限定する省令改正を今月中に行う方針だ。
改正法ではこうして規制を強める一方で、規制を緩和する施策として、都道府県が試験を実施し付与する「登録販売者」という新しい資格を設ける。薬剤師でなくても、有資格者がいれば、コンビニエンスストアでも医薬品販売が可能になる。改正薬事法は2006年に成立し、移行期間を経て、今年6月から実施される。
■260億円市場
厚労省が、改正薬事法に基づき、ネット販売の一部禁止を盛り込んだ省令改正案を公表した昨年9月、通信販売業者を中心に「消費者の利便性を損なう」として規制反対の動きが活発化した。ネット業界は、足腰の弱ったお年寄りや身体障害者、へき地に住む人ら、ネット販売を必要とする人がいるとし、利用者に呼びかけて集めた署名は約14万人に達した。
さらにこれを後押しする内閣府の規制改革会議は先月22日の記者会見で、「省令が出れば、会議として最重要テーマとせざるをえない」として省令撤回を求める構えを見せる。
ネット販売を手がける薬局でつくる日本オンラインドラッグ協会によると、ネット販売の市場規模は市販薬全体の1%程度で年約60億円、カタログ販売などを含めた通販全体では約260億円になる。
福島県郡山市の薬店主(39)は8年ほど前、仕事の都合で山間部に移った顧客に頼まれ胃腸薬を送って喜ばれたのが、通販を始めたきっかけ。その後ネット販売も始め、今は売り上げの9割を占める。
日本オンラインドラッグ協会の後藤玄利理事長は「ネットで薬を買ったことのある人は今や100万人以上。規制強化は、多くの人の利便性を犠牲にする。ネット販売でまじめに働く地方の中小薬局が廃業を余儀なくされる恐れもある」と規制に反対している。
一方、医薬品情報に詳しい薬剤師の堀美智子さんは「効き目の鋭い薬も出てきているので、その人にとって不必要な薬や、間違った使い方をされる恐れがある場合は売らない、という専門家の判断が、ますます重要になっている。一定の規制は必要」と指摘している。
市販薬のインターネット販売
現行の薬事法では、インターネットを含む通信販売は禁じられていない。通信販売について、旧厚生省は1988年の都道府県に対する通知で、副作用の恐れが少ない消毒薬やビタミン剤などに限るよう求めていた。2004年には、制限対象にはネット販売も含むことを通知した。
鎮静剤で自殺図った男性「ネットで簡単に大量入手」
「十分な知識もない未成年が、一瞬の気の迷いで簡単に買えてしまう販売方法はやめてもらいたい」。高校生だった19歳の時、自殺を図った埼玉県の男性(22)の父親は読売新聞の取材に、こう訴えた。
男性は2006年5月、インターネットを通じ、市販の催眠鎮静剤を大量服用するという自殺方法を知った。メーカーはこの薬について、薬局に対し、販売は1人1箱を厳守することなどを求める文書を配布していた。
ところが、この男性が近くの薬局を4、5軒回ると、複数販売する店もあり6箱購入できた。自宅に戻り、何気なくパソコンで検索すると、ネット上でも買えることがわかった。販売個数の制限があるところもあったが、「楽天市場」で見つけた3軒目ですんなり24箱をまとめ買いできた。
思い立ってから実行まで、わずか5日間。命は取り留めたが重い障害を負った男性は「びっくりするほど簡単に手に入ったから、あまり深く考えずにのんでしまった。後悔している」と話しているという。
副作用の恐れが強い薬のネット販売は、厚生労働省の通知に反するため、問題の薬局(北九州市)は事故直後、福岡県の行政指導を受けた。また、この問題が表面化した先月17日、楽天は、この薬の「楽天市場」での販売を中止したと発表した。しかし、別のネット商店街などでも、個数制限せずに販売する薬局があるのが現状だ。
消費者団体の東京都地域婦人団体連盟の長田三紀・事務局次長は「ネットでの買い物が便利なのは事実。ただ、ネットでは、消費者はいい業者と悪い業者の区別がつきにくく、違反の取り締まりも難しいので、現状では医薬品を扱うには不安がある。まずは、店頭での適切な販売を徹底したうえで、ネット販売のルール整備を検討してはどうか」と話している。
(2009年1月8日 読売新聞)