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2009.05.30

http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-22177.html

特別養護老人ホームで働いている看護師の皆さんに読んで頂きたい内容ではないかと思い、掲載致しました。


特養の看護師は、チームで「生活」支えて

2009年5月24日(日)14:45

(医療介護CBニュース)

【第62回】三塚千枝子さん(特別養護老人ホーム「真寿園」看護リーダー)

 重度の要介護高齢者が増加し、特別養護老人ホームなどの介護施設でも医療ニーズが高まる中、施設の看護師の役割は重要性を増している。埼玉県川越市のユニット型特別養護老人ホーム「真寿園」の看護リーダーを務める三塚千枝子さんは、総合病院での勤務や家族の介護などを経て、特養の看護師になった。当初は特養の看護師の役割や介護スタッフとの連携に悩んだという三塚さんだが、「特養の看護師は、ほかのスタッフと連携し、入居者の生活を豊かにするサポートをするのが大切」と語る。三塚さんに、特養における看護師の役割や、介護スタッフとの連携の在り方などを聞いた。(萩原宏子)



―特養の看護師として働くようになってから、ほかのスタッフとの連携に悩んだ時期があったそうですね。
 はい。実は2年くらいの間、介護スタッフとうまく連携できず、周りを困らせてしまうことが多々ありました。「医療と介護の間で乖離(かいり)があった」と当時を振り返る介護スタッフもいます。
 中でも、「食べる」ことをめぐる溝は大きかったです。介護スタッフは、終末期の方でも「なるべく口から食べさせたい」と思う。でも看護師は、「体力も落ちているし、誤嚥で窒息したら大変だからやめよう」と言う。介護スタッフが口から食べさせて、窒息したら慌てて看護師を呼んで…ということもありました。こうしたことが幾つか重なって、介護スタッフを少し「見下して」いた時期もありました。
 介護スタッフにも看護師に対する不満があったと思います。実際、わたしと介護スタッフの間で2時間にわたる口論になったことがあるのですが、その時、介護スタッフから「寝たきりの方の排泄介助をする時に『少し見てほしい』と頼んでも、『今忙しい』と言って協力してくれない」「ユニットにあまり来てくれない」など、「よくこんなに言ってくれたな」と思うくらい、いろいろなことを言われましたね。けれどもわたしはユニットにも出ているつもりでしたし、要望を全部聞いていると自分の看護師としての仕事に無理が生じると思い、そう伝えました。
 後になって介護スタッフの1人から、「すべてにかかわってほしいんじゃない。一番大事な時に一緒に来て、アドバイスをしてくれたら助かるんだ」「入居者さんのお尻が赤くなっているような時に、看護師も一緒に排泄介助に入って『これはこうだからね』と言ってくれると安心するんだ」と言われました。医療職のわたしたちを頼りにしてくれていたのに、うまく応えられていなかったのですね。介護スタッフの仕事を理解しようという気持ちも足りなかったと思います。

―なぜそのような意識の違いがあったのでしょうか。
 病院という「医療」の場と、特養という「生活」の場の違いが理由として挙げられると思います。病院の看護師は、「医療」の視点で患者にとって何が大切かを考えます。一方、特養は「生活」の場で、介護スタッフはどうやって入居者さんの普段通りの生活を支えるかを考えます。今では、介護スタッフが「口から食べる」ことにこだわっていた意味も分かります。
 病院の看護助手と、特養の介護スタッフを同じように見ていたというのもあると思います。看護助手は病院で看護師の補助をしますから、看護師が指示を出せば、その通りに動きます。そういう点で、看護師の主張が通るのは当たり前でした。しかし、特養の看護師と介護スタッフの関係はそういうものではありません。今振り返ると、病院の看護師と看護助手の関係を、特養の看護師と介護スタッフの関係に当てはめてしまったのではないかと思う節もあります。たぶん「上から目線」になっていたんですね。実際、このようなテーマで講演をすると、「わたしも同じように思った」という声を多くの看護師から聞きます。
 また病院の看護師は、医師の指示に基づいて仕事をするという教育を受けています。指示を受けて、言われたことをきちんとやっていけばいいわけです。もちろん、その指示の中で考えて行動するわけですが。しかし特養には医師が常駐しているわけではないので、どうすればいいのか分からずストレスを感じてしまう。病院から特養に来た看護師の中には、わたしを含め、最初の数か月間このような悩みを抱える人が少なくありません。

―病院と特養のギャップや、介護スタッフとの連携などで悩んだとのことですが、その後2年ほどで変化があったそうですね。何かきっかけがあったのでしょうか。
 実は以前、ユニット内で疥癬(かいせん)が広がってしまったことがありました。本当に大変で、看護師も介護スタッフも一緒になって、入居者をお風呂に入れたりしたのですが、入居者さんの服を脱がせたり、お風呂に入れたりするのが、わたしたちより介護スタッフの方がずっと上手だった。それを目の当たりにして、それぞれが専門性を発揮すればいいんだと気付きました。
 また、施設内でインフルエンザの集団感染が起こったことがあったのですが、その時、熱や咳、湿疹といった普段と違う入居者さんの状態に気付いて、わたしたちに伝えてくれたのは介護スタッフでした。この言葉がなければ、わたしたちもすぐに行動できず、事態はもっと深刻になっていたでしょう。ご家族からも苦情やおしかりを受けたのですが、こうした対応を一手に引き受けて、謝罪や説明に当たってくれたのは生活相談員でした。
 この時、「特養では看護師や介護スタッフ、生活相談員など、いろいろな人が連携しないと無理なんだ」と実感しました。それまでは正直なところ、「自分は看護師なんだから、数少ない医療職なんだから、しっかりしなければ」というプレッシャーがあったんですね。時間帯によっては、100人を超える入居者に対して看護師が1人だけになってしまいますから。でも、「突っ張らなくてもいい。自分にもできないものはあるし、頼ろう」と思えるようになりました。それからは、コミュニケーションがずっとスムーズになりました。

―それぞれの職種の専門性を生かして連携することが大切だということですが、その中で具体的に、特養の看護師が果たすべき役割はどのようなことなのでしょうか。
 入居者さんの生活を豊かにするためのサポートをすることだと思います。責任を持てないから、あれもこれもやっては駄目というのではなく、「何かあったら助けるからね」と支えて、行動の幅を広げること。介護スタッフにとっても心強いと思います。
 入居者さんと介護スタッフがお花見に行く時も、同行してもらった看護師には、「食べ物制限、行動制限の意味で行くのではなく、一緒に楽しむために行ってね。その中で医療が必要な時はしっかりやってね」と言って送り出しました。外食でビールを飲んだり、温泉に行ったりする入居者さんもいます。
 また真寿園では、終末期の方でも、ご本人が希望されれば、なるべくお風呂に入ってもらっています。たぶん、看護師の中には、37度1分くらい熱があったら、安全パイをとって「入浴はやめておこう」と判断する人も多いと思うのですが、そうすると結果的に、2週間入浴してなかったということになる場合もあります。でもわたしたちは、清潔に気持ちよく過ごすことを優先しようということで、ご本人の希望があれば、看護師も一緒に介助に入って、お風呂に入ってもらうようにしています。介護スタッフもやはり、終末期の方をお風呂に入れるとなると不安ですから、看護師のサポートがあると安心するんですね。以前、終末期の入居者の方が入浴した次の日に亡くなるということがありましたが、入浴はご本人も望んでいたことですし、ご家族も喜んでくださいました。
 生活感を大切にするという意味で、看護師の服装や施設のハード面でも、「医療」を前面に出さないようにしています。例えば、真寿園の看護師の服装は私服にエプロンです。特養が生活の場で、入居者一人ひとりの部屋が家庭だとすると、その中に白衣を着た看護師がいて、医療が入るというのは「非日常」ですよね。薬や血圧計、体温計を運ぶ時も、スチールのワゴン車ではなくてバスケット。医務室のテーブルも、家庭用のものにテーブルクロスを掛けて使っています。

―しかし、医療の専門職である看護師は、その専門性を生かした業務に特化すべきとの意見もあると思います。
 確かにそのような意見はあると思います。わたし自身もかつて、看護師は看護の仕事、介護スタッフは介護の仕事と、はっきりした「区切り」を付けていました。でも今は、「グレーの部分」も必要だと思っています。そのグレーの部分の中で、介護スタッフが安心して仕事ができるようにサポートすることが大切だ、と。
 また、おそらく看護師の中には、介護スタッフからいろいろ意見を言われると、「知ってもいないのに…」という感じになったり、介護スタッフを「下」に見たりする人もいるでしょう。でも、それは違うと思う。看護師は医療の専門職ですから、医療的な面では指示をしなければなりませんし、その責務があります。でも、介護スタッフやほかのスタッフの方が優れているところもたくさんあります。連携して、「チームでやる」ということが大切なんです。

―最後に、特養で看護師として働くことの魅力を教えてください。
 全部です(笑)。病気を治癒させるだけではなくて、生活を支えていく。本当にささいなことですが、わたしたちがサポートすることで、入居者さんの痛みや苦しみを少なくしたり、入居者さんが楽しんだりすることができたりする。それを見届けられた時に、大きな喜びを感じます。以前、「特養の看護師の仕事が好きですか」と聞かれたことがあるんですが、こう答えました。「やぼなこと聞かないでください。大好きです」と。